般若心経を贈り物にする|失礼にならない宗派・色・サイズの選び方

「お経を贈るって、失礼にならないでしょうか」

一度、そう聞かれたことがあります。

お母様の還暦に般若心経を贈りたい、でも縁起が悪く思われないか心配だ、という方でした。

結論から言うと、そんなことはないと思っています。ただ、心配になる気持ちもよくわかります。お経というと、どうしてもお葬式やご法要が浮かびますから。

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般若心経は、弔いのためだけのものではない

般若心経は、たしかにご法要でよく読まれます。でも、それだけのものではありません。

内容としては、生きている人に向けた教えです。二百六十二文字のなかで語られているのは、物事にとらわれすぎないことの大切さ。亡くなった方に向けた言葉というより、いま生きている人が読んで意味を持つ経典だと私は思っています。

だからでしょうか、実際に贈られる場面はかなり幅広いです。

新築や引っ越しのお祝い。還暦や古希の節目。開業のお祝い。快気祝い。もちろんご法要のこともあります。

なかでも多いのは、人生の節目です。何かが一段落したとき、これから何かを始めるとき。そういうタイミングで選ばれることが多いように感じています。

贈られる相手も幅があります。ご両親へ、というのがいちばん多いでしょうか。次に多いのがご夫婦の間で。あとは、長くお世話になった方へ。共通しているのは、どの方も「ものを増やしたくない年代」だということです。書は場所を取りませんし、消えてなくなるものでもありません。そのあたりが選ばれる理由なのかなと思っています。

般若心経そのものについては、般若心経とはにまとめています。贈る前に一度読んでおくと、お渡しするときに一言添えやすくなるかもしれません。

相手の宗派は、気にしたほうがいいのか

これは正直にお伝えしておきます。

般若心経は宗派を問わず広く読まれている経典ですが、読まない宗派もあります。浄土真宗と日蓮宗では、般若心経は用いられません。それぞれ中心に置いている経典が違うためです。

ご仏壇に供えるものとして贈る場合や、お寺との関わりが深いご家庭に贈る場合は、確認しておいたほうが安心かなと思います。

ただ、そこまで気にしなくていい場面のほうが、実際には多いです。

リビングや玄関に飾る書の作品として贈るのであれば、宗教的な文脈からは少し離れます。私の作品を選んでくださる方も、信仰というより「文字の並びが好き」「色がきれい」という理由の方が多いです。

迷ったときは、相手との関係で決めるのがいいと思います。ご仏壇まわりに置かれそうなら一度確認する。お部屋に飾るものとしてなら、あまり気にしなくていい。私はそう考えています。

聞きにくいときは、贈るときに「お部屋に飾っていただけたら」と一言添えておく手もあります。飾るものとしてお渡ししていることが伝われば、受け取る側も構えずに済みます。

色をどう選ぶか

色墨で書いた作品をお渡しするようになってから、色の相談が増えました。

正解はないんです。ただ、選び方の目安のようなものはあります。

ひとつは、相手の方が好きな色から選ぶ方法。いちばん素直で、外れにくいです。お洋服やお持ち物の色を思い出してみると、意外とはっきりしていることが多いです。

もうひとつは、飾る場所から考える方法。壁の色や家具の色に合わせます。白い壁なら色が映えますし、木の色が多いお部屋なら、少し落ち着いた色合いのほうが馴染みます。

節目のお祝いには、明るい色を選ばれる方が多いです。還暦なら赤を入れたり、新築なら爽やかな色にしたり。そのあたりは、贈る方の気持ちがそのまま出るところだなと思って見ています。

私自身、色を計算して書いているわけではないので、選び方も自由でいいと思っています。「なんとなくこの色」で決めた方の作品が、いちばんしっくり収まっていたりします。

ひとつだけ気をつけるとしたら、暗すぎる色でしょうか。深い色は書としては美しいのですが、贈り物として受け取ったときに少し重く感じられることがあります。お祝いごとでお渡しするなら、明るめのほうが場に合うかなと思います。

サイズは、飾る場所から逆算する

サイズは、色より少し慎重に選んだほうがいいところです。

大きければ立派、というものでもありません。置く場所に対して大きすぎると、圧迫感が出てしまいます。逆に広い壁に小さな作品を掛けると、頼りなく見えてしまうこともあります。

贈り物として難しいのは、相手のお宅のどこに飾られるかがわからないことです。

そういうときは、少し小さめを選ぶほうが失敗が少ないかなと思います。小さい作品は置き場所を選びません。玄関の靴箱の上、寝室のちょっとした壁、机の脇。どこでも収まります。

大きい作品は掛ける場所が限られるので、飾る場所まで一緒に決められる関係の方に贈るときのほうが向いています。

額装をどうするかも、サイズと一緒に考えることになります。額の色や縁の太さで、同じ作品でもずいぶん印象が変わります。落ち着いた木の額なら和室にも洋室にも馴染みますし、細い金属の額にするとぐっと現代的になります。飾られるお宅の雰囲気が思い浮かぶなら、そこに合わせて選ぶと収まりがよくなります。

サイズごとの見え方はサイズ別ガイドで写真と一緒に載せていますので、迷われたら見てみてください。

渡すときに、一言添える

これはお願いというより、私が見ていて思うことです。

般若心経を贈られた方が本当に喜ばれるのは、作品そのものより「なぜこれを選んだか」を聞いたときのようです。

還暦のお母様に贈られた方は、「ここまで元気でいてくれてありがとう、という気持ちで選びました」と伝えられたそうです。お母様は作品を見るたびにその言葉を思い出すと、後からうかがいました。

書は、そこにあり続けます。渡した日の言葉が、作品と一緒に残っていく。そういうところが、書を贈ることのいいところかなと思っています。

一言でいいんです。長い手紙でなくても、伝わります。

もし言葉で伝えるのが照れくさければ、小さなカードを添えるだけでも違います。書と一緒に引き出しにしまわれて、何年か経ってから読み返される。そういうことが、実際にあるようです。

贈り物にするとなると、選ぶ時間そのものが少し特別になりますね。この色かな、この大きさかな、と考えている時間も含めて、贈り物なのだろうと思います。どうぞゆっくり選んでみてください。

この記事を書いた人

岩手県遠野市生まれ。外資系船会社勤務を経て、結婚・子育てをしながら書道の道へ。文化書道にて免許を取得後、板橋の書道大学で漢字・かな・古典臨書・般若心経を学ぶ。吉川蕉仙氏に師事し、日展入選2回、読売書法会幹事を務めるなど高い技術を持つ。2016年より田園調布にて「清景書道教室」を主宰。パリのジャパンエキスポ招待出展や、銀座・麻布十番での個展など国内外で活動。「日常に溶け込み、愛でていただける書」をコンセプトに、日常がより充実する書道教室を展開している。

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