床の間のあるお宅から、ご相談をいただくことがあります。
「床の間に何か掛けたいのだけれど、掛け軸を新しく買うほどでもなくて」という前置きから始まることが多いです。
床の間は、家のなかでいちばん扱いに困る場所かもしれません。何を置けばいいのかわからない。かといって空けておくのも落ち着かない。そういう声をよく聞きます。
今日は、床の間に書の作品を飾ることについて書いてみます。
床の間は、もともと書を掛ける場所
床の間の起こりをたどると、仏画や経典を掛けて拝む場所だったという説があります。書院造のなかで、掛け軸と花と香をしつらえる空間として形が整っていきました。
つまり床の間は、もともと書を飾るために作られた場所なんですね。
家のほかの壁は、絵を掛けても写真を飾っても構いません。でも床の間だけは、最初から「掛けるもの」を前提に設計されている。壁の奥行きも、天井から下がる落とし掛けも、掛け軸を吊るすためにあります。
ですので、床の間に書を掛けるというのは、本来の使い方に戻すということでもあります。
まず、掛け軸という形があります
床の間に掛けるものとして、いちばん収まりがいいのは掛け軸です。
これは好みの問題ではなく、寸法の話でもあります。掛け軸は、床の間の高さに合わせて作られてきました。天井から下がる落とし掛けに吊るして、床板の少し上で軸先が止まる。その寸法が最初から決まっています。
額装だと、この縦の長さが出せません。額は横に広がる形が多いので、床の間の縦の空間が余ってしまうことがあります。掛け軸は、その空間をちょうど埋めるように作られている。
作品を掛け軸に仕立てることは、カスタムオーダーとしてお承りしています。床の間の寸法に合わせてお作りできますし、色や書く内容についてもご希望を伺いながら決めていきます。
床の間があって、そこにきちんと掛けたいということであれば、掛け軸をおすすめします。
額装やパネルという選び方
ただ、掛け軸に馴染みのない方もいらっしゃいます。
扱ったことがないので、どう掛けるのかわからない。巻いて仕舞うのが大変そう。湿気で傷めないか心配。そういうお話を伺うことがあります。
掛け軸は、掛けっぱなしにしておくものではありません。本来は、時期を見て掛け替えて、使わないときは巻いて桐箱に仕舞います。虫や湿気から守るためです。年に何度か風を通す、という手入れもあります。
この扱いを負担に感じられるなら、無理に掛け軸にしなくてもいいと思います。
額装やパネルであれば、掛けたままにしておけます。ガラスやアクリルで守られているので、埃も直接つきません。日々の手入れは、時々表面を拭くくらいで済みます。
床の間に額装の作品を置く場合、床板の上に立てかける形が手軽です。壁に穴を開ける必要もありませんし、位置も自由に調整できます。作品の下に薄い板や布を敷くと、床板を傷めずに済みます。
立てかける場合、壁にぴったりつけずに、上部を少しだけ手前に倒すと安定します。角度がつくことで、見上げたときに作品の面が正面を向くという利点もあります。
落とし掛けの金具から額を吊ることもできますが、額装は掛け軸より重いので、金具の強度は確認したほうがいいです。
どちらを選ぶか
掛け軸がいいか、額装やパネルがいいか。
床の間の格を大切にされるなら掛け軸、日々の扱いやすさを取るなら額装やパネル。おおまかにはそういう分かれ方になると思います。
正式な茶事の席や、格式を重んじる場では、掛け軸が基本です。それは間違いありません。
ただ、ご自宅の床の間は、日常を過ごす空間です。毎日目に入るものを、無理のない形で置いておく。それが続けられる形であることのほうが、大事なのではないかと思っています。
どちらにするか迷われたら、ご相談ください。床の間の写真を送っていただければ、寸法を見てご提案します。掛け軸をご検討の場合は、カスタムオーダーのページに制作の流れをまとめています。
大きさのこと
床の間は、他の壁と違って寸法がある程度決まっています。
一般的な床の間の幅は、一間(約百八十センチ)か、半間(約九十センチ)。奥行きは半間程度が多いです。もちろん家によって違いますが、この規格から大きく外れることは少ないと思います。
床の間に対して作品が小さすぎると、空間が余って寂しく見えます。逆に大きすぎると、窮屈になります。
目安として、床の間の幅の三分の一から半分くらいの幅の作品が収まりがいいように思います。ただ、これも作品の性格によるので、実際に置いてみないとわからないところもあります。
床の間の写真を送っていただければ、寸法から適したサイズを提案できます。サイズの考え方についてはレインボー般若心経のサイズ別ガイドにもまとめました。
季節で掛け替えるという文化
床の間には、季節に合わせて掛け軸を替える文化があります。
春には桜、夏には涼を感じるもの、秋には月や紅葉、冬には雪や松。季節ごとに掛け替えることで、その部屋に季節が入ってきます。
掛け軸を何本かお持ちの方は、この楽しみ方ができます。掛け替えることで、部屋の空気が変わります。
ただ、これから床の間を使い始める方が、いきなり何本も揃えるのは大変です。
そこで、一点を通年で置きながら、周りのしつらえで季節を出すという方法もあります。床の間には花を生ける場所もありますし、季節の香を置くこともできます。作品は変えずに、花や小物で季節を表す。
般若心経は、季節を持たない題材です。桜でも紅葉でもないので、どの季節に置いても違和感がありません。通年で置く一点としては、扱いやすいのだと思います。
慣れてきたら、色の違う作品を二点持って、季節で入れ替える楽しみ方もあります。青系を夏に、暖色系を冬に、というように。掛け軸なら仕舞う場所も取りませんので、増やしていきやすいかもしれません。
和室の光と、色のこと
和室は、他の部屋とは光の質が違います。
障子越しの光は、拡散して柔らかく入ってきます。直射日光のような強さがない。この光の下では、色墨は落ち着いて見えます。
明るい部屋で鮮やかに見える色も、和室ではやや沈んで見えることがあります。それが悪いということではなく、和室にはその落ち着きが合うのだと思います。
ただ、床の間そのものは、家のなかでも暗い場所です。奥まった位置にあって、直接光が入らない構造になっています。
そこに濃い色の作品を置くと、色が見えにくくなることがあります。金や明るい色を含む作品のほうが、床の間の暗さのなかで浮かび上がります。
このあたりは、玄関に飾る場合と似た考え方かもしれません。般若心経を玄関に飾るにも光と色の関係を書きました。
床の間を、使う場所に戻す
床の間があるのに何も置いていない、という話をよく聞きます。
物置になってしまっているお宅もあります。それも仕方のないことだと思います。使い方がわからないまま、そこだけ空いている。
ただ、床の間に一点あるだけで、部屋の締まり方が変わります。視線が集まる場所ができて、和室が和室らしくなる。
畏まった床飾りをしなくてもいいと思うんです。季節で替えなくてもいい。ただ一点、気に入ったものを置いておく。それだけで、その部屋は変わります。
床の間の作法にはいろいろな決まりごとがありますし、それを大切にされる方がいらっしゃるのもわかります。ただ、ご自宅の床の間は、誰に見せるでもないプライベートな空間です。
結局のところ、お好きなものを飾っていただくのがいちばんだと思っています。掛け軸でも、額装でも、パネルでも。ご自身が見て落ち着くものであれば、それが正解です。
色墨で書く作品についてはレインボー般若心経とはに、リビングや寝室に飾る場合はリビングと寝室の記事にまとめています。
額装の作品はレインボー般若心経の作品一覧からご覧いただけます。掛け軸は既製品ではなくお作りするものになりますので、カスタムオーダーのページをご覧ください。
床の間に何を置こうか迷っていらっしゃるなら、選択肢のひとつとして見ていただけたらうれしいです。
