リビングに飾りたい、というご相談は、玄関と並んで多くいただきます。
ただ、同じ「家に飾る」でも、玄関とリビングではまったく条件が違います。
玄関は、立ったまま数十センチの距離で数秒見る場所です。見る姿勢も高さも、だいたい決まっています。
リビングは、そこがまるで定まりません。
いろいろな高さから見る場所
リビングで作品を見るとき、人はいろいろな姿勢をしています。
椅子に座って見る。ダイニングテーブルから見る。立ってお茶を飲みながら、ふと視線を送る。床に座っていたり、ホットカーペットの上で寝転がって、なんとなく見上げていることもあります。
同じ人が、同じ日のうちに、これを全部やっています。
家のなかで、こんなに視点が動く部屋は他にありません。玄関は立って見る場所ですし、寝室は横になって見る場所です。リビングだけが、高さも距離も姿勢も一定しない。
これは作品選びにも、掛ける位置にも関わってきます。
まず距離のことでいうと、二メートルや三メートル離れて見ることが多くなります。この距離だと、細かい筆致は見えません。一文字ずつの表情や、墨のかすれ、紙の質感といったものは、そこからでは伝わらないんです。
かわりに見えてくるのが、全体の色の広がりです。どこに濃い色があって、どこが明るいか。色がどう流れているか。そういう大きな構造が、離れると急に見えてきます。近くで見ていたときは気づかなかった流れが、下がってみると現れる。展示会でもよくあることです。
ですので、リビングに飾る作品は、離れた場所から見たときの印象で選んでいただくのがいいと思います。写真で見ているときの感覚に近いかもしれません。
掛ける高さのこと
視点が動く部屋なので、掛ける高さは少し考えたほうがいいかもしれません。
一般的には、立ったときの目線の高さに作品の中心を合わせるという考え方があります。美術館の展示もだいたいそうなっています。
ただ、リビングで長く過ごすのは、立っているときではありません。座っているとき、あるいは床にいるときです。
床に近い位置から見上げると、額の下の辺が視界に入ってきます。あまり高い位置に掛けると、下から見上げる形になって、作品の面が見えにくくなる。
ですので、リビングでは少し低めに掛けたほうが収まりがいいことが多いです。立ったときの目線より、こぶし一つか二つ分下くらい。座って見たときにちょうど正面にくる高さです。
ご自宅でよく過ごしている場所に座ってみて、そこから壁のどのあたりを見ているか。それを一度確かめてみると、掛ける位置が決めやすくなります。
大きさのこと
離れて見るということは、小さすぎる作品だと存在感が出にくいということでもあります。
玄関で映える小ぶりな作品を、広いリビングの壁に掛けると、壁のほうが勝ってしまうことがあります。作品が壁のなかで泳いでいるような、落ち着かない見え方になる。
ですのでリビングでは、玄関より一段大きいサイズを選ばれることが多いです。
ただ、これも壁の広さ次第です。マンションのリビングと、天井の高い戸建てのリビングでは条件がまったく違います。同じ「リビング」でも、実際の壁を見ないと何とも言えないところがあります。
サイズの考え方についてはレインボー般若心経のサイズ別ガイドにまとめました。
どの壁に掛けるか
リビングには壁がいくつかあります。どこに掛けるかで、作品との関わり方が変わります。
考え方としては、自分がその部屋のどこで長く過ごしているかを起点にするといいと思います。
いつも座っている場所の背面に掛けると、そこにいる本人からは見えません。向かい側にいる人や、部屋に入ってきた人が見ることになります。人に見せる位置、と言えるかもしれません。
自分がいつもいる場所の正面だと、日常の視界に入ります。何かをしていて、ふと目を上げたときにそこにある。作品と関わる時間は、こちらのほうが長くなります。
ダイニングテーブルから見える壁もいい場所です。食事のときに自然と目に入る。家族が同じものを見る時間になります。
キッチンに立ったときに見える位置を選ばれた方もいらっしゃいました。料理をしている時間が長いので、そこから見えるのがいちばんいい、という理由でした。なるほどと思いました。
どれが正解ということはないのですが、「誰に見せたいか」「いつ見たいか」を考えると、選びやすくなるかもしれません。
迷われたら、まず一週間ほど、その壁を意識して過ごしてみるのもいいと思います。自分がどこにいて、どこを見ているかは、案外わかっていないものなので。
家具との関係
リビングは家具が多い部屋です。ソファ、テレビ台、棚、テーブル。それぞれに色があって素材があります。
作品を一点だけ見て選ぶと、置いてみたときに周りと合わないことがあります。
木の色が濃い家具が多い部屋に、明るい額の作品を持ってくると浮くことがある。逆に、白やグレーで統一された部屋に濃い色の額が入ると、そこだけ重くなる。
額のことは、意外と見落とされがちです。作品の色に目が行くので、額の色や素材まで意識が回らないんですね。
床の色に額の色を合わせると、部屋にすっと収まることが多いです。フローリングが明るい色なら明るい額、濃い色なら濃い額。同じ木の系統でそろえると、作品だけが浮くということが起きにくくなります。
ですので、ご相談いただくときは、できればリビング全体が写った写真を送っていただけると助かります。壁だけでなく、家具の色や床の色が見えると、額の提案までできます。
額装についてはオーダーメイド作品の記事とご自分で額装された事例にも書きました。
家族で見るということ
玄関は、一人で通る場所です。リビングは、家族が同じ空間にいる場所です。
この違いは、思っていたより大きいのかもしれないと、お客様の話を伺っていて思うことがあります。
作品について家族で話す、ということが起きるそうです。「これ何が書いてあるの」と子どもに聞かれたり、来客に説明することになったり。そのたびに、飾っている本人が般若心経について少しずつ知っていく。
飾ったことがきっかけで写経を始められた方もいらっしゃいます。毎日見ているうちに、自分でも書いてみたくなったと。
一人で静かに向き合う関わり方もあれば、そうやって広がっていく関わり方もある。リビングは後者になりやすい場所なのだと思います。
光と、季節のこと
リビングは窓が大きい部屋が多いので、光がよく入ります。
日中の自然光で見る作品と、夜に照明で見る作品では、色の見え方がだいぶ変わります。特に色墨は、光源によって発色が違って見えることがあります。
昼間は青が鮮やかに見えていたのに、夜の暖色の照明の下ではやや沈んで見える。逆に、赤や橙は夜のほうが温かく見えることもあります。
これは欠点ではなくて、一日のなかで表情が変わるということでもあります。同じ作品なのに、朝と夜で違って見える。季節が変われば日の入り方も変わるので、また違う顔になる。
そういう変化を楽しんでいただけたらと思います。
ただ、直射日光が長時間当たる場所は避けたほうがいいです。紙も墨も、日に焼けると色が変わります。レースのカーテン越しくらいがちょうどいいかもしれません。
リビングに飾るということ
色墨で書く作品についてはレインボー般若心経とはに、玄関に飾る場合の考え方は般若心経を玄関に飾るにまとめています。
リビングは、家のなかでいちばん長く過ごす部屋です。そこに作品があるということは、日々のいちばん多くの時間を作品と共有するということでもあります。
構えて眺める必要はありません。テレビを見て、家族と話して、そういう普通の時間のなかに、ただそこに在る。ふと目が行ったときに色が入ってくる。それくらいでいいのだと思います。
作品はレインボー般若心経の作品一覧からご覧いただけます。リビングのどこに置こうかと想像しながら見ていただけたらうれしいです。
